「よし、これで全部かしら?」
秋葉原にあるスタジオPCAの楽屋、誰もいない夜9時の楽屋で1人、メンバーが散らかして行った衣装をかたずける1人の少女がいた。
ソファや机の上に乱雑に置かれていた衣装は夢原のぞみの物だろう。そして脱ぎっぱなしの星がトレードマークの靴下は来海えりか。
飲みかけのジュースは恐らく一番遅くまでドラマの撮影があった美墨なぎさのものであろう。
「なぎさもリーダーとして大分自覚が出てきたけど・・・こういうところはまだまだね」
「うーっス、まだ誰かいるのかー?って、アレ?ゆりちゃん!なにしてんだよこんな時間まで!」
「あ、バットさん。お疲れ様です」
楽屋に戻って来たPCA21スタッフの難波伐斗は今だ楽屋に残って片づけものをしているメンバー、月影ゆりを見て驚いたように声をかけた。
「ゆりちゃんこそ疲れてるだろ?今日はバラエティーの収録の他にラジオ放送の生出演、ミュージックスタジアムの撮りだってあったんだから、そんなコトしなくていいんだよ。俺等スタッフに任せて早く帰りな。明日学校だろ?」
「ありがとうございます。もう少しだけ、ここの机だけ片付けたら帰りますから・・バットさんだって、毎日大学の授業以外は全部お仕事じゃないですか。わたしよりよっぽどタイヘンだとおもいますよ、それにご両親に迷惑かけたくないからって学費も生活費も全部自分で工面なさってるんでしょ?スゴイですよ」
「ハハっ・・年下のキミにそんなに褒められると嬉しいケドなんか照れくさいなぁ・・そんなコト言ってくれるのゆりちゃんだけだよホント」
お互いに褒めあっていたゆりとバットは顔を見合わせて互いに微笑んだ。
バットは素直にこのゆりという少女に感心した。
PCA21の最古参のメンバーにして、来海ももか、知念ミユキと3人で芸能プロダクション五車プロモーションの初代アイドルとして小学校6年生の頃から名を馳せたメンバーの中でも大先輩。
彼女らより先輩といえばそれこそ今は高校生でゆりたちより1つ年上の冨永鈴(とみながりん)ぐらいだ。
芸能生活ももう長いだろうに、それに奢らず、こうした些細なことにまで目端が利く。以前はプリキュアのリーダーとしてみんなをまとめていたが、今年に入ってリーダーを1つ年下の美墨なぎさにバトンタッチ。しかしまだメンバーのお世話を何かと焼く頼りになるお姉さん気質は変わっていないようだ。
「それじゃ・・あとお願いしていいんですか?」
「ああ、いいよ。まかせな。今日はお疲れさま」
「お疲れ様です」
軽く会釈して帰っていくその後ろ姿。バットは彼女のそんな姿に
(いつも気ぃ張って疲れねえかなあのコも・・たまにはリラックスできる時間でもあればいいんだけどな・・・)
と心の中で思った。
「あ〜〜〜っっオイ!サラマンダー!キサマ今のは反則だろうが!!なんで車からカメの甲羅が飛んで来やがるんだ!」
「だってそーゆーゲームですもん!ホラホラまだまだ行きますよっ!」
「よっしゃ!今度は俺様のところにキノコが出たぞ!なにか人をナメくさったようなニヤケ面が気に食わんが、このダッシュで追走してくれるっ!」
「じゃ、ワタシ雷ゴロゴロ使っちゃいますねv」
「ああっ!おれの赤い帽子かぶった髭のオヤジがちいちゃくなっちまったぞっ!しかも後ろからやってきた舌の長いトカゲに踏まれてぺちゃんこにぃ〜〜っおのれぇ!ゆるさんっ!オイそこのトカゲ!オレの名前を言ってみろォ!?」
「・・・・」
学校帰り。
今日も父の頼みを聞いてやろうと家ではなく取り敢えず父の会社の社長室を訪れてみたオリヴィエ・藤原は目の前で繰り広げられている父と父が同志としてスカウトしてきたヘルメット姿のオジサンの白熱のバトルを見て、ちょっと本気で息子としての立場に疑問を感じた。
父の仕事は表向きは芸能会社の社長さん。しかしてその真の姿はこのゆる〜〜い世界を邪悪な魔力によって征服しちゃうぞという悪の秘密結社・ワルサーシヨッカーの総帥である。
裏の顔は彼からしてみれば褒められたものではないが、どちらの仕事に取り組むにしろテレビゲームに友達と2人して興じながらできるような生易しいものだろうか?
「あ!オリヴィエお帰り〜v今おやつ用意してあげるからね〜」
「なんだ小僧?帰って来たのか?」
「よっしゃあ!ハイ、父さんまた一番のっり〜!一番のっり〜♪いっとうしょーいっとうしょー!ジャギさんまたビリっケツぅ〜〜v」
「なぜだあぁあ〜〜〜っ?このオレが4連敗だとぉ〜〜っこんなコトがあるワケがねえ!おのれケンシロウーーーっ!」
「まあまあ、こういう日もありますって、オヤツにしませんかジャギさん?」
「フン!よぉし、次やる時はこの悪のカリスマの俺が誰にもマネできない極悪非道なレーシングゲームの極意を披露してやろう!んじゃあオヤツにしようかな?今日のオヤツな〜に?」
「新宿のサザンクロスデパートに最近入った有名なスイーツ店「ファイブホイールスター」ってトコで買ってきたロールケーキなんですけどねvおいしいらしいんですよぉ、もー1時間並んで買ってきたんですからぁ〜♪」
「フフフフ・・甘いなサラマンダー、俺ならば即座に割り込みをして即座に手に入れるぞ?それぐらいの悪事をやってみせろぉ!」
「あ、それもそうでしたね!じゃ、明日も行きますか?」
「そうだぁ2人で割り込みして割り込んだ後ろのヤツに向かってとどめのセリフ!」
「「オレの名を言ってみろ!?」」
「胸に七つの落書きを忘れるなぁーー!」
秘書も呼ばずに自分でせっせと湯を沸かし紅茶を入れる父、サラマンダー・藤原は、ジャギさんと一緒に物凄く程度の低い悪事について訳のわからん熱論を展開していた。
そんな姿に思わず深い溜息をつく息子のオリヴィエだが、この父の様子を見ると、今日は打倒・プリキュアの話が出てこない。
ひょっとして失敗続きで諦めたか?と淡い期待を抱いたオリヴィエはさりげなく父に尋ねてみた。
「父さん・・その・・最近は芸能関係の仕事順調なの?」
「ん?ああ、昨日も1つバラエティーの特別番組の共催が決まったよ」
「そう、よかったね。じゃあ、もうそろそろ世界征服なんてヤメにしたら?」
しかしそこまで言うと、サラマンダーはケーキを口からボロボロ溢しながら鬼気迫る表情で息子に熱弁をふるい出した。
「バカを言うな!いいかい?芸能の仕事はあくまでも表の資金稼ぎ!すべてはこの世界に我がワルサ―シヨッカーを君臨させるための布石なのだよ!・・でもなぁ〜・・まさかサーキュラスくんまで失敗しちゃうなんてなぁ〜・・まあ彼までいなくなっちゃったら仕事回らなくなっちゃうからティッシュ配りのペナルティーはさせてないけど・・誰かいないかなぁ〜・・」
そう情けなく呟いていたサラマンダーの耳に、コンコン。というノック音が聞こえた。
そして秘書の女性が入ってくる。
「失礼します。社長、ザケンナー部門の小林部長がお見えです」
「あ!そうだ!まだ彼女がいたんだった!アナコンディくんありがとう!さあさあ入りたまえ!」
アナコンディと呼ばれた秘書が一礼してから、背後の人物を通す。
眼光鋭い金髪ショートカットで赤のスーツに身を包んだ美女がそこにいた。
「社長、私をなぜお呼びになりませんか?社長の理想を阻む不逞の小娘ども、この小林ビブリスが叩き潰してご覧に入れます」
「あ、そ〜う!頼もしいなぁ〜・・でも油断だけはしないようにねビブリスくん!じゃあガンバって!成功したら臨時ボーナス上げちゃうv」
「は!吉報をお待ちください」
ビブリスと名乗った女性は深く一礼すると踵を返してそのまま社長室を後にした。
「ふっふっふっふ・・・プリキュアのお譲さん方、彼女は手ごわいぞぉ〜・・さて、どうするかな?」
「もう、いい加減やめなよ父さん、つぼみたちだってメイワクしてるよ?」
「だって彼女たちが父さんの計画じゃまするからじゃないか!」
「オイ、サラマンダー、紅茶おかわり」
「ああ、ハイハイ」
「・・・うめえ!おかわり」
「ってもうちょっと味わって飲んで下さいよジャギさん!ビールやジュースじゃなんだからっ!」
ゆるい性格ながらもヘンな所は意地っ張りな父に、いい加減つかれてくるオリヴィエであった。
「ハイ!ステップステップ、そこでターン!・・ダメダメ、奏ちゃん、いのりちゃん、遅れてるよぉ〜。それにうららちゃん、振りは丁寧に!ダンスはタマシイなんだかんねぇ〜、Can You Understand!?」
『ハーイ』
「OK!じゃ!ちょっとキューケイ入れよっか?ドーナツ持ってきてるからね〜、ぐはっv」
振付の先生のその言葉に、レッスン室に歓声が上がった。
PCA21の振り付け師は何人かいるが、彼はなかでもメンバーお気に入りの優しい先生、橘薫(たちばなかおる)先生だ。
多才の持ち主で、元は政府の特命諜報部員、超A級のスパイとして名を馳せていた過去もあるという、今もドーナツ店を経営する傍ら、様々な任務をこなしているという。このことを知っているのは五車プロモーションでも、中枢の人間とマミヤ達のみでメンバーはあまり知らない。
彼女たちにしてみれば優しくて面白い、ちょっと茶目っ気のあるオジサンといったカンジの認識で、カオルちゃん!と親しみこめて呼んでいる間柄である。
「ほい、ドーナツ、お嬢ちゃんも食べな」
「あ・・すみません、いただきます」
その薫ちゃんが、少々疲れた感じを漂わせているゆりにドーナツを持って話しかけてきた。礼を言いながら取り敢えずドーナツを受け取るゆり、その彼女に薫は飄々とした感じで言葉を述べた。
「いつも頑張ってるねぇ〜、みんなキミがいてくれることにすっごく安心感持ってると思うよ」
「ありがとうございます。私なんかまだまだで・・・ホントはもっともっとやらなきゃいけないことあるのに・・」
ちょっと苦笑してそんなことを言う彼女に、薫はチッチッチ、と舌を鳴らしながら人差し指をゆりの口元に持っていって優しく囁いた。
「そうやって、いつもいつも気負ってばかりだといつか疲れちゃうよぉ。たまにはパアっと気晴らしして、自分にご褒美上げなきゃ。ハイこれ」
そう言って薫は1つの封筒をゆりに差し出した。ゆりは怪訝な顔をしつつも中身を確認してそしていつものクールな顔を引きつらせて驚いた。
中にはかなりの額のお金が入っていたからだ。
「こないだ、秋葉の感謝祭でウチのドーナツ店手伝ってくれたろ?みんなでショーまでしてくれてさ。だからそのお礼v」
「そんな・・・頂けませんこんなの!それに・・アレはボランティアでっ」
「いいのいいの♪オジサンすぅ〜ごく助かっちゃったんだからwそれにコレ、先生達にもちゃんと話通してるから」
そう言って薫の指さす方向を見ると、マミヤとベラが優しい笑顔を向けてゆりの方を見ていた。
「ね。それにコレ、正当報酬だから。ゆりちゃんとミユキちゃんとももかちゃんの分のね。3人のダンス、オジサンチョー感動しちゃったんだからvまた観たいなぁ〜なんて、さりげなく催促?ぐっはv」
ゆりは先生達みんなの大きな優しさに心打たれた。
こんなにみんながわたし達のことを思っている。この人達を裏切りたいとは思わなかった。
「よーっし、じゃあみんなぁ!あと5分したら最後のフリだけおさらいして、もう1度通し練習してみよっか?」
『ハ〜〜〜〜イ!』
少女達の可愛らしい声がレッスン室に木霊した。
「ねえケーーン、これから一緒にわたし達と一緒に遊びにいきましょうよ!」
「む?遊びに?」
「そうそう!リンさんとぉ、ユリアさんと、あたしとぉ、ももちゃんとゆりちゃんの女子グループでv」
レッスン帰り、次の日が土曜で休日のためか、ケンシロウは思いがけない誘いを受けていた。
女優でケンシロウと仲の良いいつものリンとプリキュアメンバーの月影ゆり、そして五車プロモーションのアイドルダンサーグループ、トリニティのリーダー知念ミユキ、モデルの来海ももか、彼女たちに遊びに付き合ってくれとの誘いだった。
ちょうど帰り仕度をしていた時の申し出だった。
「オレを誘ってくれるのか?」
「うん!いつも頑張ってお仕事してるし、ケンシロウ先生もどうかな?って」
「わかった。オレでよければ付き合おう」
リン達の誘いに二つ返事で了解したケンシロウ。
実は先程薫ちゃんからもらったお小遣い。ゆりは早速ボランティアで一緒に働いたミユキやももかに相談してみると、今日、早速女子会を開いてみんなで楽しんじゃおうということにあいなったのだった。
先輩のリンも誘って、行こうとのことで話はまとまり、保護者のマミヤ達もゆりたちならもう心配ないと安心して承諾したのだった。
ケンシロウの返事に歓声を上げる少女たち、とくにリンは大喜びだ。
「ケンシロウ!なにやら1人だけで女子とイチャつこうとよからぬことを考えているな?」
「ム!?兄さんたち!」
と、不意にケンシロウの後ろから掛けられた声、振り返るとそこにはケンシロウの兄弟であるラオウとトキが立っていた。
「なぜここに?」
「仕事が早めに片付いたのでたまには兄弟そろって帰ろうかと思ってな、そこまで来たら偶然トキにあったのだ」
「ゴホッゴホッ・・私も病で最近接骨院を休みがちなのでバイトを探していたが上手くいかず偶然そこでラオウと・・・」
「抜け駆けかケンシロウ?ユリアというものがありながら許せんヤツ!その女子とエンジョイの権利この長兄ラオウに譲れい!」
「あ、じゃあ私も・・・最近バイト探しばっかりで息抜きできてないし・・・」
「トキぃ!うぬのような陰気なツラで女子のウケが狙えると思うてかあぁーー!?」
「兄さんこそそのおっかないツラで女の子が寄ってくると思っているか?」
「この女子会の覇王と呼ばれたラオウに死角などないわあぁ!」
なぜか自分たちを無視しして勝手に盛り上がる北斗三兄弟の兄2人に一同やや困惑していたが、ももかが思いついたように手を叩いて言った。
「わかった、お金ちょっと余裕あるし、ケン先生と一緒にお兄さんたちもどうぞ!」
「あ!それいいなぁ〜、わたしもケンのお兄さんたちのお話聞いてみたいし」
かくして、ケンシロウ、トキ、ラオウの北斗三兄弟をお供に、五車プロモーションのお姉さんチームによる女子会がスタートしたのだった。
しかし、この時ほんの少しだったが嫌な予感を感じ取っていたのがゆりだけだったのは、やはりプリキュアだったからなのかもしれない。
「あ・・・あの、リンさんココって・・・」
「あら?なぁにみんなはじめて?ココのお店スッゴク評判いいのよ?折角の女子会なんだからこーゆートコで盛り上がらないとv」
ココは新宿歌舞伎町、リンが先頭立ってズンズン後輩達をリードして辿り着いた店はなんと、かの有名なオトナの町にあったのだ。
歌舞伎町の店に入ること自体、プリキュアメンバーであるゆりはもちろんのコト、まだ未成年のミユキやももかも固く禁じられていた。さすがにももかやミユキの顔もこわばる。
正面の店には金ぴかの煌びやかな文字とネオンで「ホストクラブ・ロンリ―イーグル」と書かれていた。
「り・・リンさん、ココは・・・わたし達が入っちゃイケナイ場所だとおもうんですが・・・」
「あら何よゆりちゃん、大丈夫よ」
「で・・でもわたし達未成年ですよ?リンさんだって・・・」
「そぉんなのバレなきゃいいのよ。バレたってテキトーにお説教聞き流してれば大丈夫でしょ?」
そんなリンのさもあっけらかんとした答えに3人は心の中で《アタシらはお説教じゃすまないんだって!》と突っ込んでいた。
それにゆりは信頼してくれた先生達を裏切りたくないという強い思いもあったのだ。もし、ここで最年長である自分が規則を破ったら先生達はどんなにがっかりすることだろう?
「リンさん。やっぱりわたし達帰ります」
「ヤダぁ〜ゆりちゃんっマジになっちゃって・・冗談よ。何も入ってお酒飲めなんて言うわけじゃないのよ?ココはお酒飲まなくてもソフトドリンクだけでカッコイイホストのお兄さん達が最高のおもてなしをしてくれるんだって、だからアタシも来てみたのよ。ワザワザ規則を破らせるようなことさせないわよv」
「そっ・・そうだったんですかぁ〜」
「よかったぁ〜、もうリンさんたら脅かさないでよv」
リンのその言葉にホッと胸をなでおろすミユキとももか。そうと聞いたら初めて入るオシャレな大人のお店にテンションMAXである。
ただ1人それでも釈然としない表情をのぞかせていたゆりに、リンは優しい笑顔で言った。
「でもねゆりちゃん、どうしてもイヤなら無理は言わないし、ゆりちゃんが決めてくれていいのよ?」
そう言われてしまうとゆりもそれ以上言い返せなかった。
せっかくお世話になっている先輩が誘ってくれたお店であるし、お酒も飲まないとのこと。
それにこんな洒落たアダルトチックな店に憧れる気持ちが、真面目なゆりちゃんの内心にもないわけではなかったからだ。
「いえ・・・入って・・みます」
「そーこなくっちゃぁvよし!いざ!いっくぞ〜!」
「楽しみだなぁ〜♪」
「何があるのかしらぁ?」
「・・・ケンシロウ、みなこの店にするようだぞ?」
「ああ、トキ兄さん。それにしてもホストクラブとはなんだ?」
「ぐわあぁっはっはっは!まだるっこしいわあっ!とにかく入ればよかろう!」
後に続いて女子ではなく立派なヤローの北斗三兄弟も店へと入店していった。
「フフフ・・・見つけたぞ五車プロモーション所属の女優集団、しかもアイツは憎きプリキュアメンバーの1人、キュアムーンライトじゃないか。ここであったが百年目、目にものを見せてくれる!」
そんなテンションあがってすっかり無防備な少女達を、1人、ワルサ―シヨッカーの次なる刺客、小林ビブリスがキッチリ尾行していた。
「ああぁ〜〜〜っっ!?」
「ああぁーーーーっっ!?」
「いらっしゃいませ!ようこそロンリーイーグルへ!」とのイケメン達の歓待のもと店に入ってリンはビックリ仰天声を上げた。
なんとその店のど真ん中の一番値の張る最高級のテーブルにユリアが座っていたからだ。
「む?ユリア!」
「リンちゃん?それにケン!どうしてココに!?」
「ユリアさんこそどうして!?」
呆気にとられるリンや五車プロモーションの少女たちにユリアは少々気遅れしつつも説明しだした。
実はユリアが今仕事で演じている部隊の脚本家の先生である、中年女性がこちらのホストクラブがえらくお気に入りなのだという、そして半ば強引につきあわされる形で仕方なく来たらしい。
「だから!決して、決してケンへの浮気なんかじゃないのよ!ねえ、お願いわかって!ああ・・・それにしてもこんな所でケンに会えるなんて・・・幸せv」
「ちょっ・・ちょっとユリアさん!ドサクサに紛れてケンとくっつかないで!ケンは今わたし達と遊びに来てるんだから!」
「なぁに?遊びにってこんな店に未成年のお子ちゃま達が来ていいと思ってるの?とっとと帰んなさいよ」
「なっ・・なんですってこのオバサン!ウワキしといてチョーシ乗ってんじゃないわよ!」
「誰がウワキよ誤解与えるようなこと言わないで!」
いつもの痴話喧嘩。
その光景にゆりやミユキ、ももかはもう慣れたものと気にもしていなかったが、初めて訪れるホストクラブの雰囲気には圧倒されていた。
「スゴイ・・・」
「これが・・ホストクラブ?」
「いらっしゃいませぇ〜〜ぶひっv」
「「きゃああぁーーーーーっっっ!!??」」
突然ゆりたちの背後に現れた人物を見てミユキとももかはひとしく悲鳴を上げた。
お山ほどもある巨大なブタのような巨漢がニコニコと笑顔で3人を見下ろしていたからだ。
「当店は初めてですか?当店は例え未成年のお客様であってもソフトドリンクでのコースを用意しておりますので存分にお楽しみください、ぐひぃっv」
そしてのっしのっしと入口の方へむけて歩いて行った。
「な・・なんなのあのヒト?」
「あ・・あの人もホストなのかしら?」
そんなやり取りが繰り広げられたが、ユリアが座っていたテーブルの隣に案内され、すこし腰を落ち着けることになった一行。
広告にも出ていた通り、未成年用のソフトドリンクのコースを注文した。そのティーンガールズを含めて初めてのゆりたちのことなど丸無視して騒ぎだす北斗の三兄弟Withユリア&リン。
「ユリアぁっ!!この拳王のモノとなれい!お前にはこの天の覇王の傍こそふさわしぃーーっ!お前を手に入れて俺はこの手に天をにぎるのだあぁーーっ!!」
「ラオウ!ユリアを力づくで手に入れようとすることは俺が許さん!野望と共にこの地に眠るがいい」
「どけいケンシロウ!うぬのごとき末弟がこの長兄に牙を向こうなど片腹痛いわぁっ!」
「ラオウ、ケンシロウ、このトキの柔の拳、今こそその神髄を明かし、私の癒しの手によってユリアを救い出そう」
「どけいトキ!うぬまでこの長兄の邪魔をするかあぁ!?」
「序列など関係あるか!トキ兄さんといえどもユリアとの安住の生活を妨げるなら容赦しない!」
「ならば今この場で決めるか・・我等が拳力によってこの後ユリアの同伴権を誰が得るか?」
「「望むところだあぁっ!」」
「がんばれぇ〜〜ケーーーン!」
「嗚呼っ・・三人の漢が私のためにまた血を流して・・・もう私って罪なオンナ。このまま天へ還りたい♪」
「天に滅せいっ!!」
「せめて痛みを知らず安らかに死ぬが良い!」
「アタタタタタタタタタタ!ほわっちゃあぁーーーっっ!」
『北斗!想人同伴拳!(ほくと・おもいびとどうはんけん)』
説明しよう!
北斗・想人同伴拳とは?
3人にとって意中の相手である想い人(ユリア)とのこの後アフターを楽しむ権利を力づくで決める為の拳法である。
要するにただの兄弟喧嘩なのである。
3人の拳が乱れ飛び店内に闘気や拳の余波が甚大な被害をもたらす。
「うわあぁあーーーーっっ!?なんだなんだぁーーっ!?」 「ケンカかああぁ!?ひいいぃぃ〜〜〜っ」
「いやあぁあーーーっっ!?たったすけてえぇ〜〜っ!」 「ひええぇえ〜〜〜っっ」
「もう!ケンシロウ先生!」
「こんなトコであばれないでええぇ〜〜〜っっ!」
このままではせっかくの女子会が滅茶苦茶である。
成すすべなしと思ったその時、奥から三兄弟に声が掛けられた。
「営業妨害は困るな。このままだと力づくでお帰りいただくことになるぞ?」
そう言いながらその場に現れたのはゆりたちも見覚えのある金髪の美男だった。
「ム!?キサマは、シン!!」
「あ!あの人このまえウチのスタジオに来た・・・」
「ユリアさんの事務所の社長さん?」
現れたのはユリアが所属する芸能事務所、サザンクロスプロモーションの社長にして、ケンシロウの終生のライバル、古川真であった。
シンは不敵な笑みを浮かべてケンシロウ達北斗三兄弟の眼前まで進み出ると、傲慢不遜にこう言い放った。
「ココは俺がオーナーを務める店だ。これ以上の狼藉はやめてもらおうか?」
「何!?シン、お前の?」
「お前の仕事は芸能事務所の社長ではなかったのか?」
「フン!そう、昼間は多忙な芸能業務をこなす腕ききイケメン社長!そして夜は寂しい乙女達に南十字星の夢を与えるホストクラブ、ロンリ―イーグルのオーナーという顔を持っているのだ!」
「おのれえぇーっ!片手間に稼げそうな贅沢なバイトをしおって!この拳王をさしおいて己が財力を高めようというかぁ!?」
話を聞いていてゆり達も取り敢えずは理解した。
どうやらこの店はこのシンという人の持ち物なのだろう、芸能会社サザンクロスプロモーションは多様な企業体系を持つ複合商社としても名を馳せている。
ともすればユリアが接待にこの店を使ったのもうなづける。
「俺の店でこれ以上騒ぎをおこすなら強制的に出て行ってもらおうか?」
「なんだと?いきなり出ていけだと?傍若無人なその態度、シン!貴様には地獄すら生ぬるい!」
「客に対する態度とは思えんな、痛みを知らず安らかに死んでみるか?」
「笑止なシンよ!この拳王にかように無礼な物言いをするとは・・その自意識過剰さを抱えたまま天に滅せい!」
シンの態度に喧々囂々(けんけんごうごう)と不満を叫んでいた北斗三兄弟だがシンは落ち着き払ってケンシロウの前まで進み出ると、ピ、ピ、ピ、と電卓を取り出して押し、それを突きつけて言った。
「偉そうに客だと抜かすのならこの修繕費、耳を揃えてそっくり払ってもらおうか?」
かなりの額が打ちこまれた電卓を見て一転、北斗三兄弟はこの世の地獄を見たかのような絶望表情になって叫んだ。
「なっなにィーーっっ!?まっ・・まさかコレが噂に聞く・・・」
「シンの南斗孤鷲拳(なんとこしゅうけん)奥義・・・!」
「「「修理費用請求拳(しゅうりひようせいきゅうけん)かああぁあーーーーっっ!???」」」
「なんでもかんでも拳法の名前にしないでぇーっ!」
取り乱すケンシロウ達に、ももかが痛烈な突っ込みをブっ込んだ。
「くぅっ・・・なんて時代だ・・・」
「我等の汚れ無きユリアへの想いも・・・この新たなる乱世の金の力の前では風前のともしびなのか?」
「このラオウにもまだ涙が残っておったわ〜・・・」
涙を流してガックリと膝を落とすケンシロウ達にシンは冷たく、さらに威圧的に言い放った。
「金を払いたくなければそこで大人しくしていることだ。俺の仕事が終わるまでな」
シンはおもむろにゆり達が座っているテーブルに近づくと、「ユリア!仕事が終わるまで待っていろ」と声をかけてももかの横にどっかりと座った。
「ようこそロンリ―イーグルへ、この店のナンバーワンホストにしてオーナーのシンだ」
「あ・・は・・ハイ、どうも・・こんにちは」
「なんだ小娘?こちらが名乗ったのだからそっちも名乗るのが礼儀だろう?無礼なヤツめ」
シンはももかの目を射抜くように見下し、威圧的な口調でいいはなった。
明らかに客に対する態度ではないのだが、ももかもミユキもシンの発する独特の迫力にすっかり気圧され、知らず知らずのうちに言いなりになってしまっていた。
その場で圧力にさらされながらもかろうじて冷静さを保っていたのはゆりだけだった。
「あ・・ゴメンなさいっ!あの・・来海ももかっていいます」
「み・・ミユキです・・知念ミユキ・・・」
「ほう、ももかに、ミユキか・・・そこのメガネの娘、お前の名は?」
「え?・・あ・・ゆ、ゆりです。月影ゆり・・・」
「ほぉう・・・ゆり・・ゆりか・・・成程良かったな」
「は?な・・なにがですか?」
「親に感謝することだ。最後に{あ}がついていたらキサマの命はなかったぞ?」
そう言いながら注いだシャンパンをぐっと飲むシンに、ゆりは訳もわからず「はぁ・・」と呟いた。
「ちっ・・ちょっとももかちゃん!大丈夫なのココのお店・・なんかこのヒト、やっぱりフツーじゃないカンジよ?」
「だ、だってリンさんがイイお店って言ったし、それにココに決めたのアタシじゃないし・・ねえどうしようゆりぃ〜」
「大丈夫よ、わたしがついてるから。どうしてもアブナイ雰囲気だったらすぐに出ましょう」
そう言ったゆりの返事に、ももかもミユキも取り敢えずはコクとうなづいた。
ゆりもこんな店にいつまでもいたいワケではなかったが、隣の席でまだリンが楽しそうにホスト達とおしゃべりしている途中だったし、ここでリンを置いていくのも気がひけたのだ。
それに、知らず知らずのうちに、この真面目なゆりの中にも、普段味わえないスリルをちょっと楽しんでみたいという好奇心がめずらしく沸いていたのだ。
「きゃぁ〜〜vシンさま!」
「シン様に会いに来ちゃったぁ〜vねえねえアタシ達の所にも来てよお願ぁ〜いv」
先程から何人もの女性がシンに熱烈なラブコールを送っている。常連客も中には多くいるようだ。
No.1ホストと自ら称していたこの男だが、どうやら本当のようだ。ともすれば、どこかで必ず客を虜にする接客術を入れてくるハズである。
ゆりが注意深くシンの様子を伺っていると、その時は唐突に訪れた。
「おやおや、ミユキといったか?その髪は・・自分で手入れしているのか?」
「あ・・そうなんです!コレ、今流行りのパフユームもつけて・・流石vわかるんですね!」
そうか。とゆりは思った。
よくありがちな手である。女性の気にかけている部分を注目して褒める。ようするにホメ殺し作戦。
たいていの女子ならば確かにシンのような美男に褒められれば簡単に落ちるであろう。ゆりがミユキをそれとなく注意しようとした時だった。
ある意味彼女の予想を裏切る事態が起こったのだった。
「ククク・・・そうか。なんという・・・・乱れきった乱雑な手入れだ!」
「ええぇっ!?」
「しかも体を動かした後だな貴様?汗で臭うぞ」
とんでもない暴言が口をついて出てきた。
女性に対し手入れのダメ出しをするだけでは飽き足らず、さらに体臭を指摘するデリカシーのなさ。
ゆりも流石に驚き、ついでさぞショックを受けているであろうミユキに声をかけようとした。
「ちっ・・ちょっと!いきなりなんですか!女の子に向かってそんなこと・・・ミユキさん、大丈夫?」
ゆりは今度はミユキの表情を見てギョッとした。
彼女はまるで今の言葉にショックを受けて落ち込んだのではなく、逆に顔を真っ赤にしてそして恍惚とした表情をしながらシンを見つめていたからである。
「み・・ミユキさん?」
「な・・ナニ?この胸がときめいてキュンキュンしちゃう感じ・・・このお兄さんのこの言葉・・もっともっと叱ってほしい気になっちゃう・・あぁんvゴメンなさい!髪の毛くさくてごめんなさいっw」
「え?」
いきなり意味のわからないことを言い出したミユキ。
彼女の突然にして意外な一言にゆりは戸惑って「ミユキさん!しっかりして!」と肩をゆすったが、効果なく、さらに府抜けた笑顔を見せて体まで力が抜けていた。
ひょっとして飲み物に何か入れられたか?とも思ったが、同じボトルで自分も同じ飲み物を飲んでいたのだからそうであれば自分にも変調が来るはずである。
もしかして、この人の持つなにか特別な力?そう思ってシンに警戒を強めようとした時には、もうシンはターゲットをももかに変えていた。
「ほほう、キサマ、ファッションモデルをやっているのか?」
「ハイ!TEENs RANSEっていう雑誌で専属ページも持ってます!」
「その割にはなんだ?その服にまったくといいほど不釣り合いな・・その控えめな胸は!」
「はうぅぅ!?」
「胸だけ幼児体型!貧乳モデルとはお前のコトだ!」
流石にこの暴言は許されない。ゆりが意を決して今度こそ文句を言おうとしたが・・・
「あぁ〜んvゴメンなさい〜♪アタシ、貧乳なんですぅ〜vもっとミルク飲むからゆるして」
ももかもミユキと同じく骨抜きにされ、シンにだらしなくベタ〜っとくっついてしまった。
「ちっ・・ちょっと、一体2人に何をしたんですか?」
「ん〜?どうやらお前にには俺の技が通じんようだな。中々の精神力だ」
「わっ・・技?」
「その通り!これこそが俺が編み出した南斗孤鷲拳の新奥義、南斗巧言拳(なんとくごんけん)!あらゆる女を骨抜きにするホストとしての必殺技だ。小娘、褒めてやろう。この技を喰らってふにゃふにゃにならなかったのはユリアの他ではお前だけだ」
そう言ってハッハッハと高笑いするシンに、以前シンに抱きついて離れないももかとミユキ。
これは一種の催眠術のようなものか?しかし全くの無意識状態ではなく、ももかとミユキも会話自体は普通に出来ているためそれともまた別のものなのだろう。
「まあよい。ゆり、といったか。どうだ?お前もこっちに来ぬか?そのデカイ尻をずらしてこっちへ来い」
「わたし、そんなにお尻大きくありませんから。それにアナタにあまり興味もありません」
憮然とした表情で冷たく言い放つゆり。そんなゆりの態度にシンも笑って余裕の姿勢を見せる。
「ねぇ〜、お兄さん。ゆりってちょっとマジメ過ぎで融通きかないとこあるのよ。だから今日はアタシとずっと付き合ってv」
「あっ!ずるぅ〜いももちゃん!アタシとにしてアタシと!」
「ククク・・そうか。それではどうだ?ドンペリでも飲むか?」
「飲む飲むう!」
「入れて!何本でも入れてぇv」
「そっ・・それは!ももか!ミユキさん!ダメよそれはっ、ドンペリってお酒なのよ?」
「い〜いじゃないのよこんな時くらい!」
「固いコトいいっこなし!」
ゆりはここで初めて本気で焦った。
もはや完全に正常な判断がつかなくなっているミユキとももかの両人。このまま飲酒までしてしまえばそれこそ大変なスキャンダルになりかねない。
しかし、ゆり自身知らず知らずのうちにこのシンという男の見えない迫力に気圧され、思うように2人に警告することができなかった。
「ククク・・・何本目に死ぬかなぁ〜?・・・ハイ!ドンペリ10本入りましたぁ〜っ!」
パチンとシンが指を鳴らすと、奥から先程の大男と、そしてモヒカンのやせ形の男、眼帯をつけた中肉中背の男、髪を逆立てた背の高い男が怖い目をしてズラっとゆりたちを取り囲んだ。
「ハイ、コールいきます!」
「「「うぃーーーっ!ヒャッハァーー♪」」」
「ハイ!懐あったか心は寒い、太くてデカ〜イゆりのシリ!」
「///べっ・・・別に太くないしおっきくないですわたしのおシリ!///」
そんな彼女の切なる叫びを掻き消し、どんどん加速して騒ぎ出すシンをはじめとするチームロンリ―イーグル。
「Say!ロンリ―!」
「「「ロンリ―!」」」
「ロンリー!」
「「「ロンリー!」」」
「ロンリー!」
「「「ロンリー!」」」
「ロンリー!」
「「ロぉンリぃ〜〜〜ww♪♪!!」」
「もう!ももか!ミユキさん!しっかりしてっ」
ゆりの悲痛な叫びを無視しつつチームロンリ―イーグルに一体のももかちゃんとミユキちゃん。
そして彼女らを加えさらに加速するチームロンリーイーグル。
『ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリー!』 パフ!
『ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリー!』 パフ!
『ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリー!』 パフ!
『ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリー!』 パフ!
『ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリー!』 パフ!
『ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリー!』 パフ!
「ハイ、キミたちご一緒にv」
『ろんりぃ〜〜〜〜vv!!!』
と、盛り上がりが最高潮に達しようとしたところで、その合いの手のクラクションがドガアァーーーッッ!という轟音に変わった。
沸き上がる悲鳴、そして立ちこめる煙。
「ヤダ!ちょっとナニ?」
「もーう、いいとこだったのにぃ〜っ」
「なんだアレは?」
「む?事故か?」
「このラオウの休息の一時に邪推なマネをするとは・・・どこの命知らずだ?」
途端にリンやユリア、北斗三兄弟の意識もその現場に集中される。そしてその煙の中からゆっくりと人影が見えてきた。
「ククク・・・見つけたぞキュアムーンライト、覚悟しな!」
「おっ・・お客様!こっ・・こまります!騒ぎを起こされては・・・」
必死にとどめようとするホストを押しのけて、女性が1人、ゆりを指差して言い放った。
「ワルサー・・シヨッカー!」
「あっはっは!その通り、我が名はビブリス!月影ゆり!いやキュアムーンライト!さあ勝負だ!」
先程までの空気が一変し、府抜けていたももかやミユキも事態の深刻さにゆりのもとに駆け寄る。
「キュアムーンライト・・ってことは・・ゆり!」
「そうよ!ねらいはゆりちゃんだわ!」
ゆりは唇を噛んだ。
ここでは大勢の人の目がある。ミユキやももかは自分の正体を知っているからいいとして、他の人には正体を明かしてはいけないのがプリキュアの掟だ。
今の状況でプリキュアとして対抗できるのは自分しかこの場にいないというのに・・・
(こんな時に・・・どうしたら?)
「おやおやどうやら変身したくないようねぇ・・・ならばコレでどうだ!ザケンナーよ!」
そう言ってビブリスが片手から紫色の妖気を発すると、店の酒瓶に取り付く、煙を上げてあっという間に「ザァーケンナァー!」と酒瓶のザケンナーが姿を現した。
「うわあぁーーーっっ!」 「なんだなんだぁあーーっ!!??」 「なんか知らないけど突然バケモンが出てきたぞぉーーーっ!」
途端に大混乱の店内。その状況にシンがビブリスとザケンナーの前に立ちはだかった。
「オイそこの客。当店でそのような騒ぎは困るなぁ・・お引き取り願おうか」
「なんだキサマは?偉そうに・・」
「ここのオーナーだ。悪いコトは言わん、俺を怒らせる前にさっさと金を置いて立ち去れもちろん壊した壁や棚の修理費も含めてな」
「フザケタことを・・・やれ!ザケンナー!」
「ザァーケンナーーッ!」
「フン!身の程知らずめ・・スペード!クラブ!ダイヤ!ハート!」
「「「ヘイ!キングーーーっっ!ヒャッハアァーーーッ!」」」
「ぶひひぃーーーっっ!」
突如として始まったチームロンリーイーグルとザケンナーの闘い。ゆりは今しかないと思った。
客の視線がその闘いに向けられている隙に、ゆりは店の裏口から路地裏へ出て、人目のないことを確認すると変身アイテムのココロパフユームを取り出した。
「プリキュア!オープンマイハート!」
ココロパフユームが光り輝き、ゆりの体にコスチュームを形成する。光の中から青紫色の神秘的な衣装をまとった美しい女子高生プリキュアが誕生した。
「月光に冴える一輪の花・・キュアムーンライト!」
「待ちなさいっ!」
凛とした声が混乱する店内に響いた。
激突を繰り返してたチームロンリ―イーグルは一同を含め、その場にいた全員がその声の主を見やる。蒼紫の美しい髪を靡かせた月影ゆり、もといキュアムーンライトが厳しい目線でそこに佇んでいた。
「おおっ!プリキュアだ!」 「プリキュアが来たぞ!」 「生プリキュアだよ、謎の魔法少女が来たぁーっ!」
つい近年から世間で注目の的になっている噂の魔法少女登場に周囲の人間から歓声が上がる。
ゆりはザケンナーとビブリスをキッと見据えて言い放った。
「さあ、このキュアムーンライトが相手をしてあげるわ。かかって来なさい!」
「現れたなプリキュア!我が敬愛するサラマンダー様のため、ここで淘汰してくれる!やれいザケンナー!」
「ザァケンナアァーーっ!」
小林ビブリスの号令に従って影のような黒々とした化け物がムーンライトに襲いかかる。
身を捻って捻じり込むように打ちこんで来た大振りのパンチ。それをゆりはまるでワルツを踊るかのような優美な動きで躱(かわ)すと、大きく隙を見せた化け物の後頭部に空中で回転蹴りを叩き込んだ。
「ザッケンナぁーーーっっ」
もんどりうって店の床に倒れ込むバケモノ。その様子を見て、リンが興奮して拍手をしながら声援を送った。
「っしゃあーーっ!♪いいぞゆりちゃぁ〜んっ!・・・あ、じゃなかった、ヤバヤバ。プリキュア〜〜っ」
「まあ、あのコ強いのねケン。ケンの教え子?」
「ああ、俺がバイトをしている学校の生徒だ」
「あの動き・・彼女が使うは柔の拳か・・なかなかの素質と見た」
「フン!あの程度の実力!我が剛拳の圧倒的力の前には足下にも及ばぬわ!いずれあの小娘にも我が覇道の根幹を披露してくれよう」
リンやユリア、ケンシロウ達三兄弟も変身したゆり、キュアムーンライトの活躍を目にして思い思いのことを話している。ももかやミユキはただただゆりがケガをしないかとハラハラドキドキ心配しっぱなしである。
「ゆりちゃん・・・」
「大丈夫よミユキちゃん、ゆりならきっと何とかしてくれるわよっ!」
「ええいっ!何をしているザケンナー!相手はたった1人だぞ!いつまで手間取っている!?小癪な小娘め・・・コレでも喰らえっ!」
苛立ち混じりにそう言ったビブリスは、突然ザケンナーと真剣勝負を演じているゆりに側面から攻撃魔法を放った。真っ赤なエネルギー弾が真横からゆりに喰いついた。
「!・・うあっ!?しまっ・・きゃあっ!」
突然に襲いかかって来た予想外の攻撃に、流石のゆりも不意をつかれ、ダメージと共に大きな隙を晒してしまった。そこにザケンナーの攻撃がバチーンっとヒット、吹き飛ばされた彼女は悲鳴を上げて避ける客を尻目に店のテーブルを3、4薙ぎ倒しながら奥の壁に激突・・・っ!
ガシッ
とはいかなかった。
「・・・うっ・あ、アナタは・・」
「フン、あの程度で隙を見せてしまうとは情けない。俺の店が壊れてしまうではないか」
ゆりをすんでで受け止めたのはオーナー拳No.1ホストのシンだった。彼は「あ、ありがとうございます・・」と恐縮するゆりを気にも留めず、正面の化け物と営業妨害をしている女を睨みつけた。
「女ぁ、この俺の店でこれほどの営業妨害を働くとはな・・・覚悟はできているだろうな?」
「何だと?邪魔立てしようとすると容赦しないよ?」
「お前はこのキングを怒らせたのだ、今日の行為をたっぷりと反省させてくれるわっ!」
「ええい!うざったいっ!やっちまいなザケンナー!」
「ザッケンナァーーーッ!」
ビブリスの号令に意気揚々と邪魔立てしようとする男をやっつけようと突っ込んでくるザケンナー、突進するその化け物にシンは身を沈めて鷲の如く跳躍した。
「南斗獄屠拳(なんとごくとけん)!」
跳躍から神速のスピードで突進し、そのまま正面の化け物を蹴足で射抜いた。シンの蹴りがザケンナーに突き刺さるやいなや、ザケンナーは錐揉みして吹っ飛び、階段に叩きつけられた。
「なっ・・なんだとぉ!?バカな!?ただの人間が?」
「今よキュアムーンライト!」
「やっちゃいなさぁ〜いっ!」
ももかとリンの声にゆりは立ちあがって魔法アイテムのムーンタクトを構えた。
「花よ輝け!プリキュア・シルバーフォルテウェーイブ!」
銀色の花の形をしたエネルギー弾が倒れたザケンナーに向かって空中を駆け抜け、そしてザケンナーを包み込んだ。そこから円を描くようにしてタクトを振り力を送り込むと、やがて「ザケンナアァア〜〜〜」という断末魔を残して、ザケンナーは光の中に消滅し、お決まりにその場には「ゴメンナー」「ゴメンナー」という独特の言葉を発する小さな星型の魔物が生まれ逃げて行った。
「くっ・・くぅううぅ〜〜〜っっ・・・おのれ邪魔さえ入らなければっ・・」
「俺の店で無法を働くやつは例え客でも力づくで排除するのみ!そうだろ?」
「「「その通りですキング、ヒャッハアァーーーッ!」」」
「ぶひひーーっ」
「この世は力こそが正義!力づくで解決!お金で解決!権力で解決!そうだなお前たち?」
「「「その通りですキング、ヒャッハアァーーーッ!」」」
「ぶひひーーっ」
傲慢この上ないシンの態度にビブリスは歯ぎしりして悔しがったが、ザケンナーを蹴りの1つで吹き飛ばし、さらに息一つ乱していない様子から察するにこの男の実力はもはや自分たちの考えを遥かに超えた超人であることがわかった。
ここは大人しく引き下がるしかない。
「ちいっ!今日は邪魔が入ったが、プリキュアよ!覚えていろ!次こそキサマらのその調子づいた鼻っ面をヘシ折ってやるからね!」
そう言って小林ビブリスはゆりを睨みつけると不機嫌に大股を踏みならし、去っていってしまった。
「シンめ・・相変わらず今だ衰えぬ南斗聖拳の腕前・・・しかし忘れるな!いかに力づくであろうともユリアは渡さん!」
そんなケンシロウの言葉は、ゆりとシンに向けられた客の拍手と歓声に掻き消されたのだった。
「あ〜あ、結局なんか散々な女子会になっちゃったわね」
「わたしはケンと会えたからラッキーだったけどねv」
そう上機嫌で語るユリアにリンはキッとキツイ視線を送り、それに気付いたユリアも「文句ある?」と言いたげな視線を返した。
ロンリ―イーグルのスタッフ特別室。
あのあと、付近の警察も介入する騒ぎとなったワルサ―シヨッカーの一件。
もう女子会どころの騒ぎではなくなってしまったので、リンは取り敢えずマミヤとベラに連絡。女の子達を迎えに来てもらうことにした。
先生にバレたら怒られる!とももかとミユキは泣いてリンに連絡をしないようにと頼んだが、リンは「わたしが強引に誘ったことにするからv」と言って納得させ、取り敢えず電話をかけたのだ。その後、ユリアがシンにお願いして、五車プロモーションの一行、With北斗三兄弟は店内のシンの豪華な私室へと通され、ゆりやももか、ミユキはマミヤとベラの到着を待っているということだ。
「ゆり!ももか!ミユキ!」
「みんな無事か!?」
「あ!先生!」
小一時間ほど経った頃、スタッフルームにマミヤとベラが駆け込んで来た。
2人はももか、ミユキ、そしてゆりの安否をそれぞれ丁寧に確かめ、ケガが無いことを確認すると、緊迫した表情を緩め、ホッと安堵の息を漏らした。
そして次の瞬間、途端に2人の美人先生がみるみる柳眉を逆立てて生徒を叱る時の怖い顔へと変貌を遂げた。
「だから気をつけなさいって言ったでしょ!まだ未成年のクセにこぉんなオトナのお店に入るなんて!」
「酒やタバコが平気で飛び交うような場所だよ?もう高校生でウチのアイドル達のお手本にならなきゃならないお姉さんが・・・何を考えている!?」
「もう必要ないかと思ってたけど・・・今日は久しぶりにお尻をたぁぷり赤く腫らしてあげないとダメかしらねぇ〜・・?」
その言葉を聞くや否や、ももかとミユキは顔をくしゃくしゃに歪めて半泣きになって命乞い(?)をはじめた。
「いやぁ〜〜っおねがいっ!先生っ!それだけはゆるしてえっ!」
「お酒も飲んでないしぃ・・・勘弁してよぉ!もう高校生なのにおシリぺんぺんなんて酷過ぎるよぉっ!えりかじゃないんだからぁっ!」
「明日ダンスの収録なのにお尻イタクって踊れなくなっちゃうぅ〜〜っっ」
そんな彼女たちの様子を見て、リンが助け船を出すべくマミヤ達に言った。
「まあまあマミヤさん、ベラさん。そんなに怒らないで、この店にしようって強引に誘ったのアタシだし、ここの店って未成年専用のコースだってあったから連れて来たのよ」
「だからってねえリンちゃん・・・」
「アナタもこんな所にこのコたちを連れて来なくたって・・・」
「うん、そうよね〜、反省してる。悪かったわ。だから、ゆりちゃん達のコト許してあげてvね?」
そうリンに言われて顔を見合わせるマミヤとベラ。しばらくリンとゆり達を見比べていたがハア・・と溜め息をついた。
「わかった。じゃあ今日はカンベンしてあげるけど・・・」
「二度とこういう店には近づかないこと。いいな?」
先生達にそう釘を刺されたが、取り敢えず自分達がお仕置きから解放されて「はあぁ〜〜・・」と安堵の声を漏らしながら床にヘタリ込むミユキとももか、しかしゆりだけは釈然としない様子で俯いていた。
「じゃあケンたちを連れてそろそろ帰りましょう」
「待って!」
マミヤの後ろから澄んだ声が飛んできた。
ゆりだ。何やら彼女は思いつめた表情でマミヤとそしてベラを見つめている。
「待ってください・・・」
「ゆり?」
「どうした?もう帰らないと・・ゆりもお母さんが心配するだろう」
「・・・お願い、マミヤ先生と・・・2人だけにしてください」
その言葉を聞いて、何かを感じとったマミヤとベラ。するとベラは「わかった。先に行っているな」とマミヤに言うとももかやミユキ、リンを連れて部屋を後にした。
あとに残されたマミヤとゆり。マミヤはもう殆ど身長の変わらなくなったゆりにゆっくり近づくと、手をとってソファに座らせた。
「ゆり・・何か言いたい事があるのね?」
「・・・わたし、あの2人をとめられなかったんです」
「・・・ももかとミユキのこと?」
「聞いてください先生、実は・・・わたし達お酒を飲みそうになったの」
「・・・・」
めずらしく動揺した様子でゆりがその時の状況を取りつかれたように話した。
ホストの口車に乗ってどんどん気を良くしていき、お酒を注文させられたももかとミユキ。それを傍で見ていながら止められなかった自分。
あそこでワルサ―シヨッカーが攻めてこなければ、きっと自分も誘惑に負けていたであろうことを・・
「でも!・・わたしも・・わたしも本当はももか達と同じだったんです!このお店に入って・・カッコイイお兄さん達が自分達に耳触りのいい言葉で言い寄ってくる状況も・・お酒が自由に飲める環境にも・・ホントは興奮してずっとそうできればいいのにって・・思ったの。だから・・・だからっ・・」
「うん、それで・・アナタはどうしたいの?ゆり」
「・・・・」
どこまでも優しい顔のマミヤを見て、ゆりは言葉を発することも苦しくなった。
先生達は自分達を信頼してくれて今日の女子会を認めてくれたのに・・もう少しでそれを裏切ってしまうところだった。
自分の弱さが恨めしい。ふつふつと罪悪感が沸いてくる。
どうしようもなくなっていた。そして、普段PCAのお姉さんとしてみんなの憧れの的の月影ゆりちゃんの口から、先生にお願い事が発せられた。
「・・・先生、わたし・・・今日悪いコだったの・・だから・・・」
「うん・・・なぁに?」
「・・・お仕置き・・してください。前みたいに・・・厳しく・・・」
やはりそうか。とマミヤは思った。
この子は本当に正義感の強い子だ。そして他人や他のメンバーの子にも厳しい態度を取ることも多いが、何よりこの子は自分に一番厳しいのだ。
今回のこと、決してゆりが悪いわけではない。むしろ問題はリンや誘惑されるままだったももかやミユキにある。しかしそれでも彼女は自分が許せないのだ。この子は清算を求めている。
そのために久しぶりに自分を頼って来たのだ。
マミヤはフウ、と息をつくと、ゆりの顔を見つめた。
めずらしい、どこにでもいるちょっと弱気な普通の女の子の顔をしていた。マミヤは意を決すると、ゆりを自分の膝の上に強引に寝かせ、そしてスカート越しにお尻の上から手を乗せると、ゆりに言い放った。
「わかった。そう言うならやってあげる・・・ただし!やるからには中途半端なことは先生しないわよ?徹底的にしてあげるから覚悟しなさい、いいわね?ゆり!」
「ハ・・ハ・・イ・・お願い・・します!」
ゆりは自分が震えているのがわかった。
彼女がマミヤやベラ、サクヤと出会ったのは実に7年も前、まだ小学4年生の時だった。
プリキュアとしての力の目覚め、そしてアイドルとしての仕事。ももかやミユキとユニットを組んでいたこともある。
そんな時には当然ハメを外したり、イタズラが過ぎたりして、先生達から大目玉を喰らうこともしばしばあった。
ももかやミユキに比べれば数は少なかったが、それも中学生の頃までは何度かゆりもこのお尻ぺんぺんのお仕置きをもらったことがある。
あの痛みは一度もらったら忘れられない。
その時のことを思い出すと、身が縮こまるのは当然の反応と言えた。
マミヤの手がスカートを捲くりあげ、そして自分の下着に掛り、一気に膝辺りまで下ろされるのがわかった。
そして、ついに久しぶりの最初の1打がゆりの丸出しになった双丘に打ちつけられた。
パッシィーーーンっっ!
乾いた音。それと同時にかすかに上がる「う・・っ」というくぐもった苦呻。
ゆりの雪のような真っ白な肌に刻まれた真っ赤なマミヤの必殺の平手の痕。
ぱちぃーーーんっ!
今度は2打目。左のお尻と同じように右のお尻にも同様の痕をつける。こんどは先程より高めの「あぅ・・っ」という声が聞こえた。
ぱしんっ! ぺしんっ! ぱんっぱんっ! パンッパンッ! ぺんっぺんっ! ペンッペンッ! バシンッ! バシィッ!
続けざまにお尻に平手を落とすマミヤ。ゆりの肌を焼き焦がして行く。
他の中学生メンバーのように派手な悲鳴を上げて泣き叫ばないものの、体は正直にビクッビクッと反応し、しっかりと痛みが刻まれていることが目に見える。
しかしマミヤは手を緩めない。これはゆりが望んだことなのだ。
誘惑に負けそうになった自分を、友達を止めることが出来なかった自分を彼女は悔いている。情けない自分を戒めたい。そう思ったからこそゆりはマミヤに自分を罰してほしいとお願いした。
それがわかっている以上、マミヤも悪い子を叱る為のお仕置きの手を緩めることなどできなかった。
ぱしぃんっ! パシィンっ! ペシィッ! ぴしぃっ! ぴしぃーっ! ピシィーッ! ばしっ! バシッ! びしっ! ビシっ! ビシィーッ!
無言で叩き続けるマミヤ。ゆりは殆ど悲鳴を上げない。しかし変化に気付いた。
ゆりの顔の下のソファが濡れている。注意深く見ると、ぽたっぽたっ・・と今まさに上から水滴が滴ってくるのだ。
いくらゆりでもマミヤの平手打ちをコレだけお尻に受けて大丈夫なワケがなかった。悲鳴だけは我慢できても体は正直に反応してしまう。
お尻を襲う痛みに体が無条件に堪え、ゆりは目から涙をとめどなく流して泣いていたのだ。耳を澄ますとひくっ・・ひっく・・というしゃくりあげる声は聞こえる。
ぱしぃーっ! ペシィ〜ンッ! ばちぃんっ! べっちぃんっ! ぴしゃっ! ぴしゃんっ! ピシャァンっ! ピッシャーンッ! ぺんっ! ペンっ! ぱんっ! パンっ! ぱぁんっ! ぱあんっ! ぺーんっ! ペーーンッ!
「ひっ・・くぅっ・ひぐっ・・ひいぃぃぃっ・・った!・・ったぁい・・あっ!ああぁっ!・・・うっ・うぅううぅっ・・ううぅ・・・・っ」
パシンッ! ぺしぃーっ! ピシイィッ! ピシィーーッ! ぱちいぃんっ! ぱちぃぃんっ! ぺっちぃんっ!
ばしんっ! バシィッ! ばしっ! バシッ! ビシィイッ!
「くうぅっ・・っつあああぁっ・・ああぁああっっ・・やっ・・やああぁっっ・・・ひっ・・ひああぁっ!?やっ・・やあぁあっ!」
「こぉらゆり!逃げようとしない!ちゃんとお尻上げて我慢なさい!」
とうとう耐えきれずに声を上げて泣き叫びだしたゆり。そのゆりにマミヤは冷酷とも言える声色で言い放った。マミヤの言葉に、既に涙と脂汗でビショビショの顔を向かせて懇願する。
「いっ・・イヤ!も・・もぉゆるしてっ・・せんせぇっ・・もう許してくださいぃっ・・痛い・・オシリ・・イタイですぅ・・」
「痛いのはオシオキなんだから当たり前なの。まだ終わってないんだからホラ、手をどける。お尻庇わないの」
「いやあぁっ・・もっ・・もぉ、ダメぇ・・もうムリぃっ・・」
「ムリかどうかは先生が決めます」
バシィーンッ!
「きゃああぁんっっ」
ぱしぃんっ! パシィーーッ! ぺしぃっ! びしぃーっ! バシっ! バシっ! ビシッ! ビシっ! バチィンっ! ベチィンっ! ピシャンッ! ぺちぃーんっ! ぱちぃーんっ!
「やっ・・あっ・・ああっっ・・きゃあっ・・あっ・・ああぁあんっ・・きゃうっ・・きゃんっきゃんっ!・・いやあぁぁっ・・イタイっ・・イタイよぉお・・・ひぐっ・・」
バシィンッ! ベシィンッ! びしっ! ばしっ! バシーーンッ! ビタァンッ! ぱあぁんっ! パアァーンっ! パアァーーーンッ!
「いやあぁあぁっっ・・ごめっ・・ゴメン・・なさっ・・きゃああぁんっ・・せんせぇゴメンなさいっ!・・あああぁっ・・・ふえぇぇ・・・ごめぇんなさぁいぃ・・・ひいいぃぃっ・・きゃあぁうぅぅっ・・」
マミヤはもう謝りながらびえびえ泣いているゆりのお尻にあえてまだ厳しい打撃を落とした。
ここで手を抜いたりしたら、責任感の強いこの子のコト、きっといつまでも自分の中に甘さとモヤモヤした晴れない気持ちを引きずってしまう。
そんな気持ちにさせないよう、マミヤは散々に泣かせて泣かせてもうイヤと言うほど何年か振りにゆりを泣かせた。
「麻美耶聖拳奥義・麻美耶乱手撃(まみやらんしゅげき)!」
麻美耶乱手撃とは!?
手首のスナップと関節の稼働を如何なく生かし、平手を表裏の区別なく乱れ飛ぶ散弾銃のように雨霰と悪いコのお尻にめがけて叩きつける奥義である。
この拳を喰らった悪いコちゃん達は高速で降り注ぐ打撃の雨に連続で襲いかかる灼熱の苦痛を感じ、声を限りに泣き叫んでしまうという凄惨な仕置き拳法である。
ビビビビビビビビビビビビ!ビシィーーーーンッ!
「っっ!!・・・ぅあああぁあぁ〜〜〜〜〜〜っっっ」
「ゆり、スッキリした?」
「ひっく・・ぐすっ・・えっく・・は・・ハイ・・ありがとう・・ごさいましたぁ・・」
お仕置きが終わった後、マミヤはゆりを胸に抱き寄せ、その髪と散々叩いて真っ赤に腫れあがらせてしまったお尻を優しく撫でて上げていた。
「ゆり・・・偉かったわよ。さすがにみんなのお姉さんね」
「せ・・先生?」
「アナタの責任感の強いところ・・先生達とっても期待してるわ。でもね」
そう言ってマミヤはゆりの顔を覗き込んで見つめた。
「たまには、素直に甘えてくれたっていいのよ?」
ゆりは実は今は母と2人暮らしだ。
父と、年の離れた妹がいるが、彼らは科学者である父の都合で離れて暮らしている。いつもは大人ぶって少々いじっぱりのゆりだが、本当は少し寂しい思いをしていることをマミヤは知っていたためこう言った。
少し厳しめにお尻を叩いて泣かせたのも、その分のストレスを吐露させるためでもあったのだ。
「ゆりには、先生達みんな期待してるのよ。これからもみんなのコトお願いね・・でも、今はもう少し先生に甘えなさい」
「・・・・先生・・・ありが・・とう・・」
「ハイ!ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪ロンリロンリロリ♪・・ロンリー!」
「ロンリぃ〜〜〜っっvvv」
「まだやってるのあの踊り・・・」
「なんか・・・あんまりカッコ良くないよね」
ゆりとマミヤが戻って来た時、壊れている場所を避けて営業に回っているシンとチームロンリーイーグルの姿を見た。
今度は他の女性客に例のダンスを披露してどんどんピンドンをすすめている。
あれよあれよとボトルが重なり、女性客の支払いはとうとう50万円に達した。フラフラになりながらも女性客は帰り際「また・・来るわw」とすっかり虜になった表情でシンに言った。
「フン・・また目覚めさせてしまったか・・・女の心の中の恋を・・・ユリア!今度はお前の心も俺が掴んでやるからな!」
「シン!うぬは何を勝手なことを言っておる!ユリアはこのラオウのものだ!どんなに汚れようとかまわぬっ!最後にこのラオウの傍におればよい!それをわからぬとは・・天に滅せい!」
「ユリアに対してそのような強引な言葉攻め・・・せめて痛みを知らず安らかに死ぬが良いっ!」
「シン!キサマには地獄すら生ぬるいっ!」
シンの言葉に意気揚々と反論する北斗三兄弟だが、その三兄弟にシンは例の物を突きつけた。
「文句言うなら修理費用払ってもらおうかなぁ〜〜?」
「ぬがあぁっ!?これはっ!修理費用請求拳っ!!」
「なっ・・なんということだぁっ・・まさかまたしても我々に手の負えぬ拳法が姿を現すとはっ・・おっ・・恐ろし・・・うごげはあぁあっ!!」(←血ィ吐いた。)
「この拳王にもまだ涙が残っておったわぁぁ〜〜〜・・・」
ゆりちゃん達、女子高生グループは思いました。
ケンシロウ先生達はお金がない限り、このシンというお兄さんには勝てないんじゃない?と。
そう、シンさんは女性の心も掴めればお金も掴めるのだから。
女にモテるには、お金も必要な新世紀でした。
ロ ン リ ー か い ?
心 の 秘 孔
つ き ま せ う 。
つ づ く